「ミノタウロォス!」
天の声が、数多のクリーチャーがひしめく神の回廊に響き渡る。
彼の前にあった群衆が道を空けてゆくさまを確認すると、牛頭の怪人は意気揚々と進み出た。
割れんばかりの称賛と少しばかりの嫉妬が入り混じる歓声の中を、自慢の斧を片手に“扉”へと歩む姿。それはこれまでのカルドセプトの記述から一度も漏れたことがないという自負を、確かに感じさせるものであった。ブックへの採用頻度は著しく低いものの、「初期ブックにおける中型の属性クリーチャー」というニッチな需要を満たす存在として、揺るぎない地位を築いてきたという自負を。
その“扉”の中へと進むのは、新しい書物に筆記された者だけ。
反乱の名を冠された新しいカルドセプトにも、この古強者は己の名を刻むことができたのだ。
「野郎のドヤ顔を見ろよ。いつまで保つか見ものだなぁ……へひひ」
虚ろな表情で笑うのは、かつてのカルドセプトで最も多く使われていたともされる人気カードである。
しかし往時の輝きも泡沫の夢、多くの地援護クリーチャーの採用が噂される中、自分の採用はいっかな聞かない。業を煮やし、こっそり覗き見た新作カルドセプトの中で、あろうことか己の肖像が「この領地で領地コマンドの土地レベルアップまたは地形変化が行われた場合、MHP+20」とかいう微妙な効果のスペルに描かれているのを知ってしまった。その際、そこにクリーチャーとしての己が抹消されている未来を、深い絶望と共に悟ったのである。かつていた取り巻きは、同じ地援護で次回作内定を取り付けたとされる者たち、とりわけMHP40という謎の超強化を受けたウッドフォークのもとへと去ってしまっていた。
ただ一匹取り残されたジャッカロープの隣にいるのは、かつて自分が蔑んでいたとある不遇クリーチャーのみだ。
「ミノタウロスの吠え面が楽しみだぜ。なんてったって同じ初期ブックに、たった20G差でHPが10も高い、上位互換のオーガがいやがるんだからなぁ」
成功者の転落を確信し、暗い喜びを帯びた笑みを浮かべる。隣のクリーチャーもやがてつられるように、同様の笑みを返した。
(そうだ、僕にだって出番がないんだから。あの人ばっかり、ずるいじゃないか……)
そのクリーチャーは思い出す。同じ水属性、同じアイテム破壊の能力を持たされた、ある新カードのことを。
あの時の衝撃は、いまも胸に突き刺さっている。それはミノタウロスに対するレッドオーガなどという生易しいものではない、上位互換という言葉すら生ぬるい――土地コスト無しという手軽さ、HP50という脅威のステータス、武器以外のアイテムなら全て破壊という侵略にも適した強能力。さらには、あらゆる者に好まれる、完璧な絵柄――まさに、新カードによる旧カードの破壊。
それはとりもなおさず、創造主からつきつけられた己の存在否定に他ならないのだから。
(やっぱり、僕はいらない子だったんだなぁ……)
「そうだね、そんな惨めな思いをするくらいなら。新作に呼ばれない方がマシ、生まれてこない方がマシだったかも……」
“扉”へ誘う天の声の響き続ける回廊で、ひっそりと消えゆこうとしているクリーチャーの呟きは、しかし力強い声によって遮られた。
「おっと、それ以上はいけねぇぜ相棒。」
とっさに振り返る。自分を呼んだ声は、次の宇宙への“扉”とは対極の位置にある、闘技場(コロッセウム)へと続く扉の方から聞こえた。なぜ、きみはそんなところにいるのか? その疑問より先に浮かんだのは。
「なぜ、きみが僕を相棒と呼ぶの?」
「とある酔狂なセプターが、最後の宴に俺達を招待してくれたのさ。パーティー会場をひっかきまわす、とっておきのトリックスターのコンビとしてな」
「でも、だって……」
属性も違う。耐久値もお互い低い。ただでさえ用途が難しい二人がコンビを組む? なにかの冗談だ。
喉まで出かかったその言葉を遮ったのは、彼自身の足だった。暗い目で呆然と佇むジャッカロープの隣を離れ、彼は相棒と彼を呼ばう見慣れぬクリーチャーの元へ向かう。今までの彼の態度に相反した、力強い足取りで。
「お、おい……何の冗談だテメェら……」取り残された者は焦りを帯びた声で喚く。「行くんじゃねぇよ、何を今更……無駄なことはやめろ! よりによってテメェらがコンビを? 笑われて潰されて、それで終わりだ!」
遠ざかるイモムシの背中に向かって、なおも叫ぶ。「わかってんだろ? おめぇは神に見放されたんだよ!! なかったことにされたんだよ!! バランス調整ミスった糞カードだったって! だからあんなカードを創ったんだ! 地援護をぶっ殺しまくれる強カード、公開直後Miiverseでイラスト描いてもらえるような可愛らしいペンギン様をよォ! 『なんでペンギンなのにビーム吐いてんの? そんだけ強いならせめてイラストくらいキモい方向に妥協してよ全てにおいて負けたようもう!』ってテメェもキレてたろうが。忘れたとは言わせねぇぞ!!」
「忘れてなんかないさ。でも……」
答えは既に知っていた。体は準備できていた。だからほとんど話したこともない彼の呼びかけにだって、すぐに応えられたんだから。
「僕にだって意地がある。こんな僕でも使役してくれるセプターがいるんだったら、僕の全てをかけて報いたい。この古いカルドセプトに、自分がいたって足跡を刻みたい。」
「あぁそうさ。生まれないほうがマシな命なんて嘘だ。そらぁ自分の力や境遇に、期待やら希望やらを余計に背負わされて、溺れてる奴の言い訳だ。余分な荷物は捨てっちまえ! 低スターテス大いに結構! 潰されていこうじゃねぇか。俺らの真価は、進み続けたその先にある、ってな。」
イモムシの目はもう濁っていない。美しい水を流しながら、扉の前の小さな相棒を追い越してゆく。
後に残されたのはあっけにとられた元・人気クリーチャーと、新作に沸くクリーチャーの群れ。そして、回廊の石畳にしっかりと残る、酸の涙の引いた足あと。
チョンチョン:「いい目だ、相棒。最後の舞踏、抜かんじゃねぇぞ」
ラストクローラー:「うん、これが僕の、僕達のラストダンスだ!」
「くたばれカイザー!」(by 森陽) | |||||
---|---|---|---|---|---|
シェイドフォーク | 3 | カウンターシールド | 2 | アンチエレメント | 3 |
デコイ | 1 | スパイクシールド | 1 | インフルエンス | 1 |
パイロマンサー | 3 | スリング | 2 | シンク | 1 |
G・イール | 3 | ニュートラクローク | 2 | チャリオット | 1 |
フェイト | 2 | ディジーズ | 3 | ||
ラストクローラー | 4 | パニッシャー | 3 | ||
スフィンクス | 1 | ファインド | 1 | ||
チョンチョン | 3 | ブラックアウト | 2 | ||
ホーリーワード6 | 2 | ||||
ホーリーワード8 | 4 | ||||
マジックブースト | 1 | ||||
リコール | 1 | ||||
クリーチャー | 20 | アイテム | 7 | スペル | 23 |
Good Luck to Your Next Journeyにて使用。
これがカルコロ最後の大会ということで、やりたいことをやり切りたい!
そう思って、「ラストクローラー」を使ったブックに取り組みました。
このカードは何と言っても、カルドブログで初めて書いたネタ記事で取り上げたカード。すごい思い入れがあります。
一見して「弱ぇ! どうやって使えばいいのかわからない」と匙をなげ、その後もたま〜に触れることがあっても、大会を通じて使ってみようと思ったことはありませんでした。前回、パンブックで大暴れできたことが自信にもなり、最初に投げた匙を最後に拾ってみるのも乙なものかな、と考えた次第で有ります。
後世の歴史家の評価を待つまでもなくどうしようもないカードではありますが、条件さえ揃えばなけなしのポテンシャルを発揮することができるんです!(断定)
そんな思い込み(超大事)から出発して、じゃぁどうやってポテンシャルを発揮できる場を整えるのか? と悩みぬいたところ、やはり安直ではありますが土地呪いスペルに頼るしか無いのかな、という結論に至りました。途中まではディスコードも交えた強襲タイプのブックも考案してみたのですが、よくよく考えてみるとラストクローラーが3枚も4枚も入ったブックだと、ラストクローラーがゴブリンに変身するという本末転倒な展開になりかねないと気づいたので潔く諦めた次第です。(その後、なんとボイラーズさんが近いコンセプトでブックを組んでおられたと知って驚きました。ラストクローラーにこだわりさえしなければ、いい作戦ですよねっ!)
そこで問題になるのが屋根付きクリーチャー、特にグリマルキン。
土地呪いが効かないので、グリマルキンのレベルを上げられるだけで手出しできなくなります。その展開を想定してスカウトしてきたのが、これまた不遇クリーチャーのチョンチョン。安くてばらまけるので、連鎖要因にもなり、さらにはレベルを上げられた後でも相手にブラックアウトをかけてやれば猫に突っ込ませることができます。ブックにはパニッシャーがありますので、そこそこ圧力をかけられるでしょう。
あとはもう、出たとこ勝負です。カードパワーでは明らかに劣っているので、展開をうまく味方につけないと勝てないだろうなぁと覚悟して予選に望みました。
すると、意外なことに準決勝を含め4連勝。
と、いっても内容は全て運に恵まれたもの。勝負ダイスがうまく決まる、土地呪いを打ち込んだ高額地にビタ止まりして侵略成功、などなど。嘘みたいな確率で、ラストクローラーが狙った土地に直踏み侵略を連発した際は、もう何かカードの執念みたいなものを感じました。
準決勝では、レイピアさんの本気焼きで何度も更地ができる中、自分の手番が一番最後だったことが勝利に直結したと思います。ギリギリまでマジブを温存できたことに加え、焼かれた後の土地を確保できたりしたダイス運がよかったですね。本当に、最終ラウンド一歩手前で一位のたかぎさんを追い抜けましたから。それにらいくすさんが回線落ちしなければ、コンジャラーや高HPクリの多いらいくすさんが最も有利になっていたと思います。バ=アル先生にラストクローラーは手も足もでません(イモムシだけに)。
決勝は、まさしく手も足も出なかったというのが正直な感想。カナリアでもホーリーワード主体のブックで勝てたので変にいじらない方がいいかと思い同ブックを使ったのですが、やはりアイテム数、リコール等は少々いじったほうが結果的には良かったと思われます。
序盤に足ばっかり引いて、終盤に高額地踏みまくるという絵に書いたような大惨事になってしまいました。このダイス運ならばリコール入れたところで……という感じではありましたが、他の三名が堅実に守りを固める中、私だけ焦ってちょっかい出しまくっていたので、焦らずガマンして周回に徹すればもうワンチャンスあったかもしれません。かぼさんの地援護クリにラストクローラーで何度も突っかかり配置交換で事なきを得られてしまったり、あそうさんのボジャノーイにチョンチョンで突っかかり数ラウンド後のランドプロテクト引き撃ちで事なきを得られてしまったり。アールさんの土地も狙っていたのですが、攻めかかろうとする前に高額地を踏んでしまい、万事休す。
なにぶんラストクローラーが攻めのコンセプトなので、場が荒れた方がどさくさに紛れて漁夫の利を得やすい(ホントそういう勝ち上がり方ばかりだったと思います)のですが、他3人がしっかり守るタイプだと、途端に苦しくなります。苦しくなりますというか、ぶっちゃけ無理ゲーになります。なので無理にでも場を荒らすため、土地呪いやパニッシャーをてんこ盛りにしたのですが、踏みで手持ち魔力もかつかつになり、守る土地はない奪える土地はないで八方塞がりフィニッシュ。やっぱりアールさんには勝てなかったよ……
ただ、当初の目的「最後の大会をラストクローラーで暴れる」というのは達成できました! まさか決勝にまで残れるとは思っていなかったので、妨害の喜び……ならぬ望外の喜びであります。私の陰湿な妨害で苦しんだ皆さん、ゴメンナサイ。
ただ、少しでもラストクローラーのことを見なおしてくれる人がいたなら、それは成績以上の喜びです!
好きなカードでブックを組む。こだわってブックを作る。
初心者のころはそうやって、結構めちゃくちゃなブックを作っては消して楽しんでました。
次回作発売を間近に控えたこの時期に、もう一度初心者の気持ちにもどって楽しめて、本当に幸せでした。
大会主催のウェザリングさん、参加者・対戦してくれた皆さん、もう一度お礼を言わせてください。
できるなら、次回作でも懲りずに遊んでくださると嬉しいです。
チョンチョン「いや〜、負けた負けた! 最後は枯渇った! 完敗だぁ!!」
ラストクローラー「みんな強かったねぇ。もっともっと、活躍したかった! 悔しいなぁ」
チョンチョン「の、割にいい笑顔してんな。」
ラストクローラー「真正面からぶつかって、真正面から潰されちゃったからね。全力出したからかな、すごく気持ちいいんだ、今」
チョンチョン「めげないねぇ。いや実にいいツラだ。ペンギン様にもその笑顔、拝ませてやりたいねぇ」
ラストクローラー「その時は、こう言ってやるんだ。『潰しても調子に乗るなよ、潰されてもめげるなよ。パワーだけが価値じゃない』ってね。老害だとか言われたって、思いっきり先輩風吹かせてやるんだ。それでもし、あいつがくだらないことで潰れかけたら、真正面からぶつかるんだ。バカみたいに叫びながらさ。」
チョンチョン「くたばれカイザー?」
ラストクローラー「くたばれカイザー!」
ShinYoh (2016年7月9日)
7/8 ジャッカロープ、確認!