僕はSTが少ない。
僕はHPが少ない。
だから、だれも、僕を使わない。
――――
「あれぇ? そこにいるキミは、えーっと……」
わざとらしく小首を傾げ、そいつはニタニタとした意地の悪い笑みを浮かべながらこう言った。
「……誰だっけ?」
周囲でギャハハハ、と爆笑が起こる。僕は苦笑しながら、もじもじと体を動かす。相手が僕をいじるのに飽きて、話題を他の何かに変えるまで。ただ、黙って耐えるしか無いんだ。
ここは天空の祭壇。新しいカルドセプト(世界創造の書)の完成を祝って、盛大な宴が催されている。主神ソルティス様を囲み、カルドセプトに書き込まれた全てのクリーチャーたちが集っていた。長々しい神様の前口上もずいぶん前に終わり、めいめいがホーリーグレイルを手に取って、自分のこれまでの活躍を肴に、極上の美酒に酔っていた。
中でも、コイツの酔い方は少々ひどい。元々ガラの悪いやつだとは思っていたが、同期の中でも図抜けて活躍している分、気持ちが大きくなっているのだろう。アルコール臭い息がかかって、思わず身をのけぞらせた。
「オイ、何逃げてんだよ。こっちこいよオラ……な、お前な、名前なんつったっけ?」
僕の態度に気を悪くしたのか、 わずかに怒気を含んだ目で絡んでくる。前足を肩にがっちりまわして、放さない。マズい。何とかして逃げないと……
「い、いやだなぁ。同期じゃないか。ぼ、僕のこと忘れたの? 属性が違ったって同じ小型クリーチャーだからって、教習所ではよく一緒だったじゃないか。休み時間中、『ティラニーって新スペル怖いよね~』、ってよく話したり……」
「あぁ? ンな話してねーしティラニーとか全然見ねーし。つか、お前ってマジで採用されてたんだ。対戦で全然見ねーから、てっきり削除されたかと思ってたぜ。」
ヒック、としゃっくりをして、酒臭い息を吐きかけてくる。こいつも昔はこんなヤツじゃなかった。教習所では大人しくって、僕と同属性の同期――期待の新人と言われていた大型クリーチャーをキラキラとした目で見つめていたっけ。でも、カルドセプトがセプターに公布されて何千という対戦が行われると――当初の期待を裏切って彼らよりコイツの方が活躍した。 各カードのブック採用数の統計表を見てからだろうか、コイツが次第におかしくなっていったのは……
「あ~! 思い出したぁ。『イビブラ20G下がった即打ちコワイ』ってぴーぴー言ってたヤツだよなぁ、お前。『土地コストあるのに、イビブラ1発で落ちたら評価下がるよぉ』、なんてよ。土地コスト持ち!たいしたもんだぁ」
わざとらしく周囲を見渡すと、各所からお追従の笑いが起こる。その多くは、土地コスト無しなコイツの取り巻き達。 ステータスだけは高いものの、各ブックでエースと呼ばれる土地コスト持ちクリーチャーにコンプレックスを抱くヤツらだ。コイツの活躍の陰で、援護要因として自分たちの出番が増えていると解った後は、太鼓持ちになり下がっている。
「最初は、『僕の特殊能力だと、キミにはすごく不利だよね』なんて上から目線だったがよぉ、オメェ、地土地に配置された俺をノーアイテムで倒せねーじゃんよ!」
とたん、大爆笑が起こる。 かーっと、顔が熱くなるのが自分でも分かった。もう、いやだ。こんな……こんなのって……
「や、やめてよ。顔近い……い、息が……く、くるし」
「あァ?! なんだって?」
僕の漏らした一言を聞いて、突然激高した。僕の手にしたホーリーグレイルをはたき落とし、喉元を掴み上げる。
「誰がハンババみたいな口臭してるだとぉ? テメェ、俺をあんなブック採用率底辺の魔獣野郎と一緒にすんのかよ! 息くらいでガタガタ言いやがって、風クリーチャーかってんだよテメェはよォ、アァ?!」
「あ……だめ……」
振り上げられた、彼――ジャッカロープの手にしたホーリーグレイルが、その手の中で突然、カシャンと音を立てて崩れ去る。錆びてボロボロになったホーリーグレイルのかけらを見つめながら、ジャッカロープはゆっくりと歯を剥きだしてゆく。コイツが完全にキレた時の兆候だ。
僕は諦めて目をギュッと瞑る。大丈夫、一発くらいなら平気だ。 周囲から取り巻きたちの罵詈雑言が飛んでくるが、どうせ彼らは何もできない。‘今、僕の手には何もない’から。僕の‘特殊能力’で、彼らはジャッカロープを援護することができない……
「そこまでだ」
僕たちの間に、さっと割り込んできた者がいる。恐る恐る目を開けてみると、そこには陰のように佇む一体のクリーチャーがあった。
「シェイドフォーク? なんだお前、コイツを庇おうってのか」
ジャッカロープが噛み付くが、 心なしか先ほどまでの剣幕が薄れている。それもそうだろう、彼こそ同期クリーチャーの中で群を抜いて……いや、先輩方も含めた”全てのクリーチャーの中で”最もブックに採用されてる、スターカードなのだから。
僕を庇うように立つ彼の口から発せられたのは、しかしその期待を完全に裏切るものだった。
「違う。これ以上は不毛だと判断した――クズ虫の相手をするのはな」
一瞬、ぽかんとした表情を見せると、ジャッカロープは腹を抱えて笑い出した。周囲のクリーチャー達も涙を流し、ホーリーグレイルを机や床に打ち付けながら笑い転げている。
「く、くず虫……ハハッ、違ぇねぇ! ハハハッ! ……ハァ、おいクズ虫。以後口には気をつけろよ。それと、床に散らばったホーリーグレイルの屑を片付けとけ。大好物なんだろ? 錆びたアイテムカードの屑を嘗め取るのが、よ!」
ギャハハハハ、と続く大爆笑。肩を揺すって去って行くジャッカローブを尻目に、シェイドフォークはぼそりと呟いた。
「せめてお前のSTがあと10あったら……」
頭をひとつ振って、もう関心を無くしたようにシェイドフォークも遠ざかってゆく。ジャッカロープの背後を襲うように。彼は僕を助けてくれたんだろうか? いいや、違う。あいつが慢心して地クリーチャーが増えれば、自分の活躍の場がもっと広がるとでも思っているんだろう。やっと解放され、痺れるような緊張がゆるみ始めた頭でぼんやりと考える。第一線で活躍するクリーチャーたちにも、こんな駆け引きがあるんだ。 ……でも、……僕には……
のろのろとその場を立ち去ろうとして、まだ床にホーリーグレイルの欠片が散らばっているのが見についた。 溜息を吐き、触手を伸ばそうとした瞬間、それらは砂のように崩れ去ってしまった。
「同族の面汚しめが」
「グレムリン、先輩……」
顔を上げると、いつの間に近づいたのか。その能力がアイテム名にもなった、究極のアイテム破壊能力を持つ風クリーチャーが僕を見下ろしていた。
「貴様があのような態度を取るから、援護クリーチャーどもが付け上がるのだ。ジャッカロープなど、ブーメラン一枚で片がつくものを。貴様もそう思わぬか、シーフ?」
「いんやぁ。オラっちはアイテム使うか使わんか二択仕掛けなけりゃ落とせねーし。そもそも盗むの専門だし、先生を置いて連鎖確保するのが役目だしなぁ。」
背後から突然現れたのは、シーフ先輩。僕とに似た能力を持ってる、けど、安く置けて守りに長けた先輩は無属性ブックによく採用されている。頼りにされているんだ、……僕と違って。
「しっかし、ラス坊はちっと非力すぎだわな。土地守るにしても、マリ……じゃなかった、パイロマンサーの旦那に簡単に落とされちまうだろ? 旦那がグレアム使ったら、破壊耐性のあるアイテムでもねー限り100%落ちちまう。言ってもしゃーねーけど、あとHPが10あれば、こんな」
情けねぇ言われ方しねぇよな、という続きが聞こえてきそうで、僕は夢中で口を開いた。
「で、でも! 僕だってきっと、きっと活躍の場は……、そう、アレス様! アレス様さえいれば僕も……」
「五月蠅いッ!」 グレムリン先輩が一喝した。僕は、びくっと体を震わせる。
「アレスがおれば、ダゴンがおれば……仕舞いには、『ブレイブソングがあれば』とでも言うつもりか? たわけ!貴様のそういう心根の在り方が、あやつらの好餌となるのがまだ解らんのか!クズめ!」
グレムリン先輩は言うなり、決然と踵を返して去って行った。悄然として僕は見送る。だって、仕方ないじゃないか…… みんな、酷い……酷すぎるよ、これ以上僕にどうしろって言うんだよ……
「あいつもさ、悪気はねーんだよ。」シーフ先輩が、啜り泣く僕の肩を揺らしながら、「あいつも今まで苦労してきたからさ。巻物読めた時代は、そりぁあ活躍したもんさ。あぁ、デコイや今はいないセイレーンと並んで、真っ先にイビルブラストの標的になるくらいにな。大したステータス値でもないのに、酷使されて……クリーチャーの大型化の波が来たときは、急にブックに呼ばれなくなったり、なぁ。だから後輩のお前さんを見ておけねーんだろうさ。しっかし」
一つ息を吐いて、苦笑しながら、言った。
「ラス坊のステも能力もコストも、ぜ~んぶ中途半端で、どうしようもねぇよなぁ?」
恨むんならカミサマを恨むんだぜ、 と言い残して、シーフ先輩も去って行く。すぐにその背中が滲んで見えなくなる。床に落ちた酸の涙がシュウ、と音を立てて埃を溶かす。
僕は独りだ。誰も僕を助けられない。誰も僕を使えない。
あぁ、神様。僕は。ぼくは、
どうしてこのように生まれついてしまったのでしょうか?
カルドセプトを汚すような。居場所のない、無価値なクズ虫を
その神聖なご本の中に書き入れた意味はあるのですか?
――――
宴の席の一角にて惹起した騒動に、主神は僅かに眉を潜められ、かの者、新しき生命を得たクリーチャーの心慰め、血肉沸き踊る戦場を整うべく、その手になる天地創造の書の一隅に、新たなる記述を認められ給う。
ソルティス:
(っべー。まじャべーわ。つか、ねーわ。調整ミスったわ。完璧。コレ。
いや~、なんで見落としたかな俺? いやいやまぁまぁアンチマジックだけは絶対ねじ込むんだけどね。コレ。ジャッジで8割被弾とかシャレなんねーし。あ、ジャッジ今回は出ねーか(笑) いや違くて、クリーチャー調整でこんな失敗するってありえんわー。自分で引くわ。 水は他2体が売りだったからね~ってことは除外しても、よ。なんでこんなんで土地コストつけたかな~、俺? いや、ステ振りミスった? あれ? これカキコしたときって酒飲んでたっけ、俺? マジ全然記憶ねーんですけど(笑) うはwwwマジ俺wwwやっっwちwwwまっっっwたwwww
ん~、ま、やっちまったモンは仕方ねーし? 毎回あるよね、不遇カードってさ。うんうん、そんなんいちいち気にとめてたら身が持たねーし。まぁ、活躍の場を与えときゃいいでしょ。幸い今回、それ向けのステージってのを用意しちゃってるんだし。キワモノ好きの変態セプターも多いし、その内誰かが使ってくれるっさ。多分www)
――――
ハンデ戦 [レベル7]
新人セプター:
「しまった! またラストクローラーにアイテム使っちゃったよ。こいつマジうぜーわ。……あれ? つか、強い、のかこいつ? 手に入れたら俺も使ってみようかな……」
前略
G・クローラー先生、お元気ですか? 私は新しいカルドセプトで元気にやっています。実はこのたび、主神に新人セプターの教練役を拝命致しまして……同期のクリーチャー3体と、レベルアップステージという場所で活躍の場を頂きました。先輩のような強力な即死能力はないものの、持ち前の特殊能力を活かし、充実した日々を過ごしています。新カルドセプト公布からまだ間もなく、セプターさん達のブックに入る機会も、まだあまり多くありません。しかし、先生の教えを守り、クローラー族の誇りを胸に精進を欠かさず、いつの日か強クリーチャーの仲間入りを果たす所存です。次回作では、先生と肩を並べて水の中、森の中を突っ走りたいと思います! なんて、先走りすぎですか?(笑)
先生の御多幸を祈念しつつ
長月吉日 ラストクローラー拝
――古参セプターのカード評を読んで――
新人セプター 「あ~、やっぱクズだったわこのカード。いらね。」
yuushadomovoi (2012年9月2日)
涙なしには読めない記事ですね><
でも私の中で今作で一番気になる存在なので、なんとか使いこなせるセプターになれるよう頑張ります!
naraa (2012年9月2日)
せ、せめてあとHPがあと10、いや1でいいから(-。-;
JOSYUA (2012年9月2日)
そのうちあの触手が伸びに伸びて金色の野となるので、その上に降り立つんですよ。
青き衣をまといし………ブルーオーガが。
Sarutani (2012年9月3日)
STがあと10あったら、手札復帰でも付いてれば、かなり嫌らしい運用ができたのに…。
勝負に「たられば」は禁句ですが。
maoh (2012年9月3日)
ネタにしてもらえて、草葉の陰でラストクローラーさんも喜んでるでしょうね
森陽 (2012年9月4日)
結論:
ラストクローラーたんはぐう弱
>ドモさん
ドモボーイ、こないだ対戦の中で見ました。
イビルブラストや土地呪い多いので、何気に今作では活躍できるクリーチャーだと思います。
ドモさんのラストクローラー本、楽しみにしてますよ~
>naraaさん
むしろ、合体クリーチャーになったら強いかもしれません。
カーバンクル+ラストクローラー=……
『カーバンクローラー』
ST:50
HP:40
反射(巻物);アイテム破壊(アイテムを使用しない場合);復活
やばい! 強い! でも見た目はグロい!
>ヨシュアさん
むしろ、領地能力がつけば面白いかもしれません。
『ラストクローラー』
アイテム破壊(笑);領地能力=自分を破壊し、任意の土地にチョンチョンを配置する。
弱っ! 別の意味で面白くなってしまいました。
(そういえばチョンチョンも見かけませんね……アンチエレメント強いんですけどね。)
巨神兵くらい呼べないと、どうにもならないかもです。あうあう。
>さるたにさん
それか今回ベルオブカオスがないので、その能力がついたら面白かったかもしれません。
『ラストクローラー』 コスト:60G+水
ST:40
HP:30
相手がアイテムを使用した場合、そのアイテムを対戦者全てのブックから消去する。
やばい! 超強いかも!
禁句ですけど、やっぱりたらればっちゃいますよね。
そういえば、「ここがこうだったら……!」という話題で盛り上がるのは、ゲームにはまる一歩手前の状態らしいです(by レベルE) 我々は既にどっぷりですけども。
>maohさん
まだまだ! 妄想は止まりません。
手始めにラストクローラーたんのぐう弱っぷりをネタに、萌化してみるというのはどうでしょうか。
よく物を壊す⇒ドジっ娘キャラ
いざという時に頼りにならない⇒へたれ属性
いもむし体型⇒ロリ巨乳
…やばい、マジ震えてきやがった…怖いです…冗談にしてもキャラ立ちしすぐるでしょう?
クリーチャーが擬人化されたら全クリーチャー中トップに躍り出るのは確定的に明らか。
(でも僕はグリマルキンちゃん!)